倫理綱領
令和3年10月6日作成
令和3年10月22日理事会決議
一般社団法人 神奈川県介護支援専門員協会 倫理綱領
前文
私たち神奈川の介護支援専門員は、介護保険法に基づく、利用者の自立した日常生活の実現を支援する専門職であり、人々がさまざまな個性を持ちそれに応じたニーズを持っていること、誰もがケアを必要とする存在であるとともに、常に可能性を持つ存在であることを深く認識しています。私たちは、これからの社会に不可欠な存在として、様々な専門職や地域社会とともによりよい福祉社会の実現に向かって努力します。私たちは、対人援助職としての知識、技術の専門性と倫理性の維持向上が専門職の責務であることを認識し、本倫理綱領を制定し、これを遵守することを誓約します。
【解説】
介護支援専門員は、介護保険法第7条5において、要介護者又は要支援者からの相談に応じる対人援助職であり、要介護者等が自立した日常生活を継続するのに必要な、専門的知識及び技術を有し、ケアマネジメントを通し、その人らしい生活が続けられるように支援する専門職として定義されています。本倫理綱領では、私たちの支援の対象を利用者と表現していますが、そこには法が規定する要介護者又は要支援者に加えて、家族や地域のケアシステムなども支援の対象に含まれてきます。そして、そのために介護保険サービスの調整だけでなく、様々な社会資源の活用、また、社会資源やネットワークの開発に資するために地域ケア会議等への提言を行う専門職でもあります。
介護支援専門員は、このように専門的知識と技術に裏付けられた専門職であるために、職業倫理に基づく行動が強く求められます。私たちの実践の積み重ねが社会全体と密接な関わりがあることを認識し、本倫理綱領によって自らの実践を振り返りながら倫理的な意識を常に持ち続けることが必要です。
第1条(人権尊重)
介護支援専門員は、個人の尊厳の保持を忘れることなく、利用者の有する能力に応じ、自立した日常生活を営むことが出来るように、人権を尊重し、常に利用者の立場に立ち支援を行います。
【解説】
介護支援専門員はその任務の遂行を通して、関わるすべての人の基本的人権を最大限に尊重することにより、いかなる場面においても、個人の尊厳を傷つけたり、権利を侵害したりする行為はしてはなりません。また、国籍、性別、年齢、障害、宗教、文化的背景、社会経済的地位にかかわらず、どのような場合においても利用者はすべてかけがえのない存在として尊重されなければなりません。そのうえで、利用者が置かれている状況をよく把握し、その有する能力に応じ、利用者の意思決定に基づく必要な支援によって、自立支援に向けた計画を展開する視点を忘れてはなりません。
利用者が自らの人生の主人公となれるよう、意思表示が難しい場合であっても、可能な限り自己決定できるように、意思決定のプロセスへの支援をおこなっていくことが重要です。介護保険法第1条においては、個人の尊厳について明記され、同法第69条の34においても介護支援専門員の義務として「介護支援専門員は、その担当する要介護者等の人格を尊重し、常に当該要介護者等の立場に立って」と明記されています。
第2条(主体性・自己決定)
介護支援専門員は、利用者の立場に立ち、支援を行う上で、意思と主体性を尊重し、自己決定により判断することが出来るようにします。利用者の権利を擁護し、人格を尊重するとともに、法律に基づく命令を遵守し、忠実にその職務を遂行します。
【解説】
介護支援専門員は、利用者の置かれている環境や心身の状況等を、最善の方法を用いて的確に把握するとともに、利用者が望む自立した生活を支援するために、各種情報の収集や関係機関との連絡調整、社会資源の活用情報等を利用者に提供します。
介護支援専門員としての専門的知識や技術によって、課題や原因を明らかにし、その解決方法や手段を、利用者の立場にたって提供したうえで、要介護者等の「自己決定」により判断することが出来るようにすることこそが、権利擁護の基本となるのです。更に利用者が自己の意思決定を表現できない場合は、介護支援専門員がアドボケイト(擁護者・代弁者)することが必要です。介護保険法第81条第6項においても、「指定居宅介護支援事業者は、要介護者の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、要介護者のために忠実にその職務を遂行しなければならない。」と記載され、法の遵守が求められます。
第3条(公平性・中立性)
介護支援専門員は、利用者とサービス提供を行う機関、事業所との関係において公平性と中立性を常に保ち利用者を支援します。
【解説】
介護支援専門員は、利用者の自立支援、自己決定を基本に介護サービスを提供します。提供に当たっては、各種事業所等との調整が不可欠でありますが、サービス事業者の利害に捉われず、常に公正・中立な立場を保たなければなりません。ましてや自らが所属するサービス事業所の利益等を最重視することなく、公平性・中立性を保ち業務を遂行しなければなりません。介護保険法第69条の34においても、介護支援専門員の義務として「介護支援専門員は、その担当する要介護者等の人格を尊重し、常に当該要介護者等の立場に立って、当該要介護者等に提供される居宅サービス、地域密着型サービス、施設サービス、介護予防サービス若しくは地域密着型介護予防サービス又は特定介護予防・日常生活支援総合事業が特定の種類又は特定の事業者若しくは施設に不当に偏ることのないよう、公正かつ誠実にその業務を行わなければならない。」とされ、指定居宅介護支援の事業の人員及び運営に関する基準1条の2第3項においても「指定居宅介護支援事業者は指定居宅介護支援の提供に当たっては、利用者の意思及び人格を尊重し、常に利用者の立場に立って、利用者に提供される指定居宅サービス等が特定の種類又は特定の指定居宅サービス事業者等に不当に偏することのないよう、公正中立に行わなければならない。」と公正・中立が強く求められています。
第4条(社会的責任)
介護支援専門員は、職業人としての対人援助職であり、利用者の生活に深いかかわりを持つものであることに鑑み、その果たす重要な役割や社会的責任を自覚し、常に社会の信頼を得られるよう努力します。
【解説】
介護支援専門員は介護保険法に位置付けられた専門職であり、利用者の尊厳を保持し自立支援を行う役割が課せられています。ややもすると社会的に弱い立場に置かれかねない利用者の生活に深く関わる専門職として、ひとりひとりニーズの異なる個人を尊重しながら、効果的なサービスの調整を行うことが求められます。一方で公平・中立性を確保しつつ、社会的には効率的な利用調整も求められます。このような介護支援専門員の行う支援は極めて大きな社会的な責任を伴うことを自覚しつつ業務を執り行う必要があります。
また、介護保険法第69条の36の信用失墜行為の禁止においても、「介護支援専門員は、介護支援専門員の信用を傷つけるような行為をしてはならない。」と明記されています。介護支援専門員は法律に基づく業務の遂行はもとより、その役割は社会からの信用、信頼が成り立って初めて付託されうることを常に認識したいところです。
第5条(個人情報・プライバシーの保護)
介護支援専門員は、職務上知り得た利用者や家族等に関する情報については、正当な理由なく秘密を漏らすことなく保持・保護し、守秘義務を厳守します。
【解説】
介護保険法第69条の37に「介護支援専門員は、正当な理由なしに、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。介護支援専門員でなくなった後においても、同様とする」とあります。利用者や家族からの情報提供は、介護支援専門員を専門職と認め、信頼が根底にあり、その貴重な個人情報をないがしろに取り扱うことは決してあってはならないことです。また、多職種からの情報も集約され、情報の発信も多くありますが、ケアマネジメントプロセス全体を通じて情報の管理が適切に行えるよう、ICT化を含めた事業所内でのルールが必要です。守秘義務を守り、情報を慎重に取り扱うことが信頼関係を守ることになります。
第6条(法令遵守)
介護支援専門員は、利用者の有する能力に応じ、自立した日常生活を営むことができるよう、介護保険法及び関係諸法令、通知を遵守します。
【解説】
介護支援専門員は介護保険法に位置づけられた専門職であり、特に介護保険法や運営基準などは、法改定も含めた理解、遵守が必要です。
介護支援専門員は、利用者の尊厳を保持し生活全般の課題を解決すること、自立支援を行うことから、他にも多くの法令に係る業務を行うため、それらの法律も遵守しなければなりません。介護支援専門員が遵守することが求められる介護保険法以外の法律等には次のようなものがあります。
ⅰ「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」
ⅱ「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」
ⅲ「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(障害者虐待防止法)」
ⅳ「個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)」
ⅴ「老人福祉法」
ⅵ「社会福祉法」
ⅶ「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」
ⅷ「生活保護法」
第7条(説明責任)
介護支援専門員は、利用者に対し、介護保険法及び各種関係諸法令等や、介護支援計画に基づいて提供された、福祉、医療、保健のサービスについて、懇切丁寧に、わかりやすい表現を用いて説明する責任を負います。
【解説】
介護支援専門員は、介護サービスの申請から利用、また終了までの過程について、利用者や家族が自己決定・自己選択ができるよう、必要な情報提供と説明が義務づけられています。介護サービス計画については、利用者や家族にとって理解しづらいことも多々あるため、利用者主体のサービス利用が可能になるよう、必要に応じて繰り返し説明を丁寧に行い、わかりやすく説明することが大事となります。
第8条(苦情への対応)
介護支援専門員は、要介護者等または関係機関から苦情相談を受け付けた場合は、迅速かつ誠実に対応するとともに、利用者に不利益にならないように配慮し、再発防止及び改善に努めます。
【解説】
介護支援専門員、事業所に寄せられる苦情については、真摯に受け止め各事業所で整備されている手順に従い、迅速に対応することが求められます。
苦情相談窓口、相談機関など契約時に説明するとともに、事業所内に掲示し、また、日ごろの支援の中でも苦情申し立てができる事を説明し、利用者、家族の保護、権利擁護の視点をもち介護サービスの質の向上のために苦情解決に取り組む必要があります。
当事者同士での解決が困難な際には、地域包括支援センター、保険者、第三者機関への相談、報告も必要であり、各機関での調査には必要な情報、記録の提出など協力が求められ、再発防止及び改善に努めなくてはなりません。
第9条(専門性の向上)
介護支援専門員は、質の高いサービスを提供するため、常に専門的知識・技術の向上の自己研鑽に励み、専門職としての資質向上に努めます。
【解説】
介護支援専門員は、法定研修のみならず職能団体が行う研修やあらゆる研修の場の活用や新たな情報収集などにより自ら積極的に研鑽を重ね専門的知識・技術の向上に努めなければなりません。加えて、利用者等からの評価や第三者からの評価を真摯に受け止め、またサービスの質の評価を自ら行うことで、よりよい改善策を検討し、自己点検・自己評価を繰り返し、質の高い介護支援サービスの提供に努める責務があります。
第10条(他の専門職との連携)
介護支援専門員は、適切な介護支援サービスが提供できるように、利用者の意向を尊重し、介護サービス、保健医療サービス及び福祉サービス、その他関連する支援にかかわる専門職等と連携を図り、利用者の立場に立って支援します。
【解説】
介護支援専門員は、利用者が住み慣れた地域で安心してその生活が継続できるよう、必要な介護・保健医療・福祉サービス、その他多様な地域のフォーマル・インフォーマルな支援等を把握し、それらを効果的に利用でき、利用者の望む生活の実現に向けたサービス計画を立てる役割を担っています。
利用者の支援に関係する専門職の専門性を理解し、その専門的支援を活かしたチームケアを実践する調整役としてのコーディネ―ター機能の向上が求められています。
第11条(すべての人への敬意)
介護支援専門員は、自らが所属する組織・職場のみならず、あらゆる関係するすべての人に敬意を払い、その権利を侵害することはありません。差別的・抑圧的な行為も許さず、その防止の推進を図ります。
【解説】
介護支援専門員は、対人援助職として利用者に対する人権を尊重、社会的責任に基づき法令を遵守し、利用者の利益を最優先に考えること、個人情報の保護等権利を擁護することは、当然課せられるべき倫理であり義務です。これは利用者のみならず、公的な制度に位置付けられた専門職として、関係するすべての人(同僚、所属する組織の関係者、他の専門職等)に、敬意を払って守られなければならないことです。関係するすべての人の権利を侵すことはできません。一部の人たちを差別する、抑圧的行為によって言動を制限するなど権利・利益を侵すことがあってはなりません。また、そのような行為を確認した際には、その行為を指摘し、その後の予防・防止に努めなければなりません。
第12条(より良い社会づくりへの貢献)
介護支援専門員は、利用者の生活課題が地域において解決でき、その生活が継続できるよう、他の専門職や団体・関係機関、地域住民との連携・協働を行い、利用者を支える地域包括ケアシステム構築の推進に寄与するとともに、ケアマネジメント及び介護支援サービスの質を高めるために尽力し、より良い社会づくりに貢献します。
【解説】
介護保険制度の基本理念である「介護の社会化」は、社会的システムとして、要介護状態の程度に応じて、誰もが必要な介護サービスを受ける権利を持つことを意味しています。地域住民が介護や支援が必要になった時、その人らしい望む生活の実現に向けて、総合的かつ効率的にサービスが提供される仕組みが必要で、「サービス計画」に基づいてサービスが提供されます。個別のサービスで「何を行うか」というだけの計画でなく、その利用者がどのように生活をしていくのかを基本に組み立てられた「全体的な計画」であると言えます。介護支援専門員は、「利用者の介護サービスの全体計画」の作成を担う専門職として位置づけられています。
介護支援専門員は、介護保険制度の理念の実現に向けて、その要として、制度を守り育て、介護ニーズを有するすべての人々が、住み慣れた地域において安心して暮らし続けることのできる社会の実現を目指して、努めていく必要があります。その手立ての一つとして、地域包括ケアシステムの推進があります。利用者の自立支援を基本にしながら、介護保険によるサービスを中心とし、各種専門職や専門機関相互の連携、インフォーマルな活動等を含めて、地域のさまざまな社会資源を開発・統合・ネットワーク化することで、地域住民を継続的かつ包括的に支援することが重要だと言えます。
介護支援専門員は、地域住民が要介護・要支援状態になることを予防するとともに、要介護状態になっても可能な限り地域において、自立した日常生活を営むことができるよう支援することも、社会から期待されています。